レーベンス・ホール(Levens Hall)は、毎年の冬期休業ののち、2019年4月7日に再び一般公開されました。 ここで働く20名以上のボランティア庭師の一人として、春に向けての作業を休業中に庭に入ってすることほど楽しいことはありません。庭園には多くの仕事があります。秋の終わりには草木を引き堆肥にしたり、冷たい空気の中でシナノキの生け垣を剪定したり、苗を育てる小屋で春の花壇用草花の種蒔きに向けて準備をしたりします。
ガーデニングチームは、クリス・クラウダー(Chris Crowder)の主導で行われています。30年以上にわたりレーベンス・ホールの庭師の頭(かしら)であり、300年以上も庭師たちがやって来ては、去るのではなくとどまるのを見てきた邸宅の10代目の庭師です。クリスが庭を美しく保つのを5名のプロのパート・タイム庭師たちが支え、外国からの時々やってくるインターンや、退職した人たち、園芸科の大学を最近卒業した人、郵便配達員、2名の医療職員などからなるボランティアチーム、そして、プロの庭師として働く多くの人たちによって支えられています。ここで働く者は皆、この地上の楽園で働き、過ごすことを喜び大いに楽しんでします。ロイ( Roy)のお気に入りの仕事は、芝生を刈り「すべてをきれいに整える」こと。ジャッキー(Jackie)の一番嫌いな仕事は、「風の強い日に葉を集める」こと。訪れてきた人からのベスト質問は、「ここで働くためにいくら払いますか?」だそうです。
わずか8エーカー(3万2千374平方メートル)の広さのレーベンス・ホールの庭園は、世界で最も古いユニークなトピアリー(造形物)の庭として有名です。トピアリーは、整形式庭園が流行した1690年代に、ヴェルサイユのル・ノートルの弟子であったギヨーム・ボーモン(Monsieur Guillaume Beaumont)によって造られました。 18世紀に入り、イギリスでランドスケープ・ガーデン(風景式庭園)が主流になると、ほかのトピアリーは無残にも引き抜かれました。しかし、レーベンスのトピアリーは、造り変えられることなく、その活力と大胆さ、その純粋な不屈さで今も邸宅を訪れる人たちを楽しませています。
もともと、ツゲと何千年も生きる樹木種のイチイ古木から成長したレーベンスのトピアリーの美しさは、偶然に造られたわけではありません。9月頃から庭師たちがトピアリーの刈り込みを始めるときには、3月までかけて仕上げる作業を始めています。例えば、松や盆栽を刈り込む日本の庭師たちは、枝を切り落とし始める前に、まずその木自身がどのようになりたいか自問すると言われています。であれば、レーベンスの風変わりな樹木たちは、女王が被る王冠やシルクハット、ライオンや傘になることを自ら望んでいるようです。そして、エキゾチックなものや、ありふれたものが集まるすばらしいパレードになっています。木の性質や庭師の芸術によって、なんでもありの機知に富み皮肉な形に変形されます。
もちろん、レーベンス・ホールの庭園はトピアリーだけではありません。レーベンス・ホールのガーデニングカレンダーには、種まきの時期や、小さな苗木がほぐされて1つのトレイに最大35苗植え替えられる植え付けの時期が記されています。次の作業は、間隔を置いて植え付けていくことで、庭師たちが花壇の上に一斉に並び、1面あたり850本もの草花を植えていきます。毎年、約3万本ほどの愛情をこめて育てられた植物たちが、敷地内の庭からでる有機ごみや枯れたキノコ、枯れ葉から作られた堆肥を使って植えられています。 4月には、真白と赤色の2色のヒナギクやベリスの花壇と並んで、レモン色、真青、ラベンダー色のパンジーが咲き乱れます。 5月の終わりには、春の草花は次に咲く盛りの花々にゆずり、紫や濃いピンクのバーベナ、レモン色のキンギョソウ、青色のラベンデュラや、サファイアブルーのフェアリー・クイーン・サルビア・ファリナセアが咲き誇ります。
パステルカラーや赤、黄色のボーダー花壇は、淡い青色と白色のクレマチスや、赤とオレンジのカンナ、そしてルビーレッドのハマナスや、白色のヒマラヤウバユリです。さらには、柳の木で造った迷路やローンボーリング用の芝生、シナノキの生け垣に囲まれたユリの池、ハーブガーデン、バラ園があります。また、沈んだ壁と溝からできるハハー(Ha-ha)(記録に残っているイギリスで最初のハハーの例)もあり、湖水地方の南部の山々を見渡す素晴らしい自然風景と一体化した借景を楽しめます。
わたしの個人的なお気に入りは果樹園です。4月から5月は、香り高いベアガーリックの花が波打つ中にスカーレット色のチューリップが咲き、さらにリンゴとナシの花が咲き、白い花の大空を作り出しています。それから、2マイル(3.2キロほど)の古い樫の木が並ぶ優雅な道も大好きです。かつては馬と馬車でレーベンス・ホールの邸宅門から邸宅の前までお客様をお連れしました。ケント川が流れるレーベンスの邸宅の緑がさわやかな野原を散策し、有名なバゴットヤギや黒いダマジカも楽しめます。
それらのすべてを見下ろしているのは、地味で美しいレーベンス・ホールそのものです。現在も残っている最も古い建物は、ケント川を渡ってくる侵入者から邸宅を守るために1250年から1300年に建てられたペレ塔です。 1590年以来継続的に名家が所有し、邸宅は、すべての家具や時計、ただひとつの家族の歴史をとおしてロマンティックで時には暴力的な時の流れを描いた絵画、そして幽霊(!)や豪華な新しいティールームとレストランが完備されています。でも、そのお話はまた別の機会にしましょう。室内で過ごすには今日はあまりにも素晴らしすぎる日なので。