ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナーが描いた『バターミア湖:カンバーランドのクロマック湖の一部 にわか雨』(1798作)は 、バターミア湖に浮かぶ小さな船と、一筋の光が、クロマック湖上の暗くくすんだ雲の間を通り抜ける様子が遠くからかすかに描かれています。自然の中の神の恵みが描写され、自然は雄大で、畏敬の念を起こさせ、ロマン主義です。自然の壮大さ、恐ろしさ、畏敬の念に直面した人間のはかなさを思い起こさせる崇高な表現です。

ある5月の晴れた日、クロマック湖を歩くと、自然の雄大さがはるかに明るい色で描かれていることに気がつきました。ここまでの道のりは、気持ちの良い乗り心地のバスの旅で、ケズィック(Keswick)からステージコーチ社の77A系のバスに乗り、ポーティンズケール(Portinscale)、グレンジ(Grange)、ロススウェイト(Rosthwaite)を通過し、ホニスターパス(Honister Pass)を通って辿りつきます、多くの乗客は、ホーズ・エンド(Hawes End)で下車し、360度の景色が望め、すばらしい登山が楽しめるキャット・ベル(Cat Bells)へ向かいますが、わたしたちはバターミア村のフィッシュ・イン(Fish Inn)までの旅でした。
流された橋を避けるために周り道をして村を出発し、バターミア周辺の一般的なルートを通らずに、右に曲がりクロマック湖に向かいます。クロマック湖西側に沿った道は、緩やかにうねり、足元はぬかるんでいて、ぐらぐらする石もあります。湿地をよけて道の右へと進むと、カッコウが3度鳴き、羽が白く先がオレンジ色の蝶が茂みをかすめて飛んでいくのを見下ろしています。生け垣によく使われるサンザシがあちこちにあり、湖の両側のブルーベルに一面おおわれた山々の側面に点在しています。


湖岸沿いの道からすぐに分かれ道に進み、スケール・フォース(Scale Force)に向かいました。Forceは、本来はForsで、それは、初期の開拓者によってもたらされた滝という意味の古いノルウェー語です。この滝は、湖水地方で最も高い滝で、総落差は52m、一本の落差37mの滝と複数の小さな滝で構成されています。 S. T.コールリッジは、
「スケール・フォースは、木々の間にかすかに光る白い滝で、狂人の目を覆うふさふさした髪のように垂れ下がっている」と表現しています。階段状に連続する滝は、鉄鉱石で染められた石の間を流れ、岩だらけの流域に落ていきます。わたしたちはこの幻想的な場所にとどまり、涼しさを楽しみました。そのあとは、羊囲いの跡や、古い集落の跡に向かい丘を下っていき、赤く大きな岩が転がっている水が流るところや、緑色に光る苔の生えた岩、それから黄色の鳥、セキレイが水辺で遊んでいる場所を通りました。


サンザシの中からの鳥のセレナーデ聞きながら音楽がとまるまでゆっくり進み、湖岸に沿ってロウ・リング・ラッグ(Low Ling Crag) の小さな半島に向かいました。そこは、片側の湖岸は泳ぎたくなるような水深が深い美しいビーチで、もう一方は優雅で水底には小石のあるビーチで船を漕ぐことができます。湾曲した湖の湾曲した半島でくつろぎ、ここからの眺めはこれまで進んできた道を見返すには最適な場所です。バターミアの向こう側のフリートウィズ・パイク(Fleetwith Pike)、ヘイ・スタックス(Hay Stacks)、そしてグレート・ゲーブル(Great Gable)、一方、湖の東側のがけの斜面を上がったところにあるグラスムーア(Grasmoor)は、こちらを見下ろしています。

ロウ・リング・クラッグを過ぎて湖岸に沿って進み、美しい黄色のハリエニシダやサンザシが広がる場所を右手に、ブルーベルの中から突き出るシダの茂みを左手に見ながら湾を過ぎ進みました。アイロン・ストーン(Iron Stone)の少し前までは、左側の高い道を通って、左手に見えてくる美しいオークの森まですすみます。そして、右へのわき道へ入ると、5月には白いグレーター・スティッチワートやピンク色のハーブロバートが咲き並ぶ美しいいなか道へ入ります。 お腹がすいてのどが渇いてきたので、急いで川に架かる橋を渡り別の道に出て400メートル程先の教会へ向かいました。その少し先に、カークスタイル・イン(Kirkstile Inn)が見えてきました。そこで、おいしいパブ・ランチと伝統的製法のビール、ロウズウォーター・ゴールド(Loweswater Gold)(もともとはその場で醸造されていましたが、現在はホークスヘッドのエスウェイト湖畔にある醸造所で醸造されています。)を1パイント。メルブレイク山のふもとにあるパブのビアガーデンで楽しみました。


そのあとは、バス停に向かってサンザシが並ぶいなか道に沿ってバターミアの向こうに見えるフリートウィズ・パイク(Fleetwith Pike)の景色を眺めながら進み、ハードウィック・シープがいる原っぱを通ってゆっくり歩きました。スケールヒル・ブリッジ(Scalehill Bridge)を過ぎて進む道は森へと続いていて、シダレカンバやブナ、オークの木々があるグリーン・レーン(Green Lane)に沿っていくと、クロマック湖東側を横断する道路に出ます。運が良くバスが満員でなければ、ランタスウェイト・グリーン・ファームの外の停留所(案内のマークはないです)でバターミアから来たバスに乗ることができます。ウィンラッター(Whinlatter)とブレイスウェイト(Braithwaite)を通って、ケズィックに戻る早道です。そうでなければ、77系のバスに乗って長い道のりを戻ります。(ステージコーチ・ホニスター・バスは、循環線運行をしていて、77Aは時計回りに、77は反時計回りに進みます。)バターミアを過ぎ、ホニスターパスを越えて、ボローデール(Borrowdale)から北に向かって進みます。そう、こんな壮大な景色と、ビールとフィッシュフィンガーのお供、そしてプラウマンズランチ(パブで出される軽食)があれば大満足でしょう。ゆっくりとおくつろぎください!
