2019年8月3日(土)から8月9日(金)まで開催されたグレート・ランドスケープ・ウィークでは、景観チャリティーを行う団体、フレンド・オブ・ザ・レイク・ディストリクトが私たちに気がつかせてくれました。それは、グレート・ランドスケープ(Great Landscapes)は、物質的にも精神的にもわたしたちを豊かにし、幸福感も与えてくれますが、そのすばらしい景観は脅威にさらされており、忙しい生活の中では、わたしたちはつい周りにあるすべてのものの真の美しさや重要性を当然のことと考えしまいます。1週間にわたり開催されたイベントの一環として、わたしは8人のブロガーたちと一緒に参加し、問いに答えました。「なにがレイク・ディストリクト(湖水地方とその周辺)を世界的レベルの観光スポットにしているのか。」参加したブロガーたちはそれぞれ別の解釈を持っています。わたしの考えをぜひご覧ください。
ツアーガイドとしてのスタートに向け、今年準備してきたことは、20年以上にわたって暮らした日本から、カンブリア州に移り住んだあとにすることとしては、正しいことのように感じました。 日本からレイクランドへ訪れる方に、わたしが京都で長年経験したのと同じくらいのおもてなしとサービスをすることを通して、「なにかをお返し」したかったのです。

京都と湖水地方とは、想像できる限り異なっている世界ですが、2つの場所はユネスコ世界遺産であるという枠を超えて、結び付ける何かがあると感じています。それは人間のかかわりでしょう。それぞれのすばらしい自然の美しさは、わたしたち自身の外に連れ出そうとする力を持っています。しかし、そこには人間の生活が刻み込まれた風景があり、そこには心を揺さぶる「自然」があると同時に、「わたしたち」人間の姿があります。京都の有名な石庭では、砂の上に置かれた石が、山や島を思い起こさせ、茶室のある庭園では、苔の上に巧みに配置された飛び石が、竹やカエデの間から見える茶室までゆっくりと、そしてつつしんで歩いて行くように施されています。レイク・ディストリクトのゴツゴツした山々(craggy fell)は、かつては木が並んでいた山の山腹がシダの茂みでがしっかりと覆われていて、その山々が牧草地の谷の上にそびえ立っている様子は、自然だけでなく我々の謙虚さをも思い起こします。この産物は、氷河に覆われたり地質によってできただけでなく、人間が動物を放牧させたり、食べていくことが必要であったり、うっとりと見とれて過ごしたからできたのです。要するに、それぞれの景色は文化景観で、人の手によって形づくられ、また同じく景観が人々を形づくり続けているのです。
これが人々をレイクランドや京都に引きつけるのです。2つの場所は、世界的レベルの観光地であり(京都は世界観光ランキングで頻繁に上位に入り、観光シーズンには都市の人口は倍になります。)、旅の流行や国境の垣根に関わりなく永く続く魅力があります。 人がこの場所に夢中になることは、そこに惹きつけるものがなくならない限り続いていきます。

レイクランドの場合だと、惹きつけているものは、グラスミアやバターミア湖の静けさに映し出される山々や、ひとけのない吹きさらしの小道。自家製のスコーン。「詩心をもった(アーサー・ウェインライト、 Arthur Wainwright)」初期の移住者や侵略者によってつけられた「山や谷、湖、川の美しい名前」。ビアトリクス・ポターの有名なピーター・ラビット。来る人を迎えるために開かれた涼しく静かな村の教会。山や野原をパッチワークのようにつなぎ合わせる石垣。長く曲がったカンバーランド・ソーセージ。地球と同じく土地の一部だと主張するかのような石と粘板岩造りのコテージ。いなか道に顔をだすジギタリス。ラングデール・パイクス山の帽子のような雲。暗い森や日当たりの良い手入れの行き届いた庭に咲くはでやかなシャクナゲ。アルス・ウォーター湖岸で風に揺れる水仙。山の頂上から見下ろしたり谷の底から見上げたりできる壮大な景色です。この風景は飽きることがありません。この地方にいた詩人や画家たちはこのことを知っていました。ロマン派の前後にきたガイドブックの編集者たちもそのことを知っていました。ラスキンやポッター、ナショナルトラストの創設者も知っていました。そして、英国からでも海外からでも、ここを訪れる人はみな知っています。


もちろん、日本人からきた方が過ごす短い時間で、すべてを見せることはできません。わたしができることは、訪れる方のお時間をいただき(時間はわたしが見ています)、また訪れたくなる場所を見つけることに時間を使うことを手助けすることです。たとえば、ボウネス(Bowness)のフェリーターミナル(Bowness Pier)から船でウィンダミア湖西岸に渡ったり、ボウネスからグリーブ(Glebe)まで歩いてフェリー・ナブ(Ferry Nab)へ向かい旅客船に乗ることから始めます。それから、ウィンダミア湖の絶景が楽しめる18世紀の展望台、クライス・ビューイング・ステーション(Claithe Viewing Station)までゆっくり歩いて、野原を通り、ビアトリクス・ポターのが住んでいた17世紀の家、二ア・ソーリー(Near Sawrey)村のヒル・トップをゆっくりと散歩します。そして、ポッターの遺灰が散骨されているモス・エクルズ・ターン湖(Moss Eccles Tarn)へ回り道をしたり、バスでまっすぐホークスヘッド村へ向かい、ビアックス・ポッター・ギャラリーや、ウィリアム・ワーズワースが少年時代に通い、机の上に落書きをしたホークスヘッド・グラマー・スクールやホークスヘッド教会へ。地元の食材を販売する個性的なティールームやお店もたくさんあります。


ワーズワースが大好きな方は、オープントップバスに乗って(天気の良い日に)ライダルまで行くのもいいでしょう。そして、ライダル・マウントからダヴ・コテージまで、詩人とその仲間のロマン派のファンにとっての巡礼地、コフィン・トレイル(coffin trail)へ向かいます。グラスミアの村で1時間あれば、ラウリッグ・テラス(Loughrigg Terrace)でピクニックをしたり、グラスミアやライダル湖、ウィンダミアの景色を眺めたりしてから、ライダルウォーター湖のそばを散歩します。文学にはあまり興味がなければ、ケンダルで歴史的な庭園や川、お城を訪れてから、バスに少し乗ってレーベンス・ホール(Levens Hall)の素晴らしい庭園を訪れるのもいいでしょう。それから、人々を惹きつける湖水地方中心からさらに離れたところへは、グランジ=オーバー=サンズへ行くバスがあります。そこには、装飾庭園や、遊歩道からの河口の景色、ヘーゼルミア・ティールームで紅茶とケーキを楽しめます。ハンプスフェル(Hampsfell)を超える散歩と組み合わせて、湖水地方の山々とモアカム湾の360度の景色を眺めながらカートメルに向かいます。カートメルは馬のレースで有名で、古い小修道院や、名物のスティッキー・トッフィー・プディング、地元のエール、ミシュランの星を獲得した有名なレストランもあります。


すべての場所へは、バスや電車、船、歩いて行くことができます。このことの何が、おそらく湖水地方と周辺のカンブリアで何よりも特別なのかというと、車がなくても移動することができるのです。いつでも早くて簡単で安価というわけではありません。列車やバスでの旅は高い場合もありますし、バス事業者と列車の接続が改善される必要もあります。 それでも公共交通機関や自分の足で好きな場所まで行くことができます。長年環境学を教え、環境に負担をかけない持続可能な輸送について考えてきたわたしにとっては、このことがレイクランドを本当の世界的レベルの観光地としている理由だと思います。 未来の世代のために環境を保ちながら、私たちみんなが褒めたたえ、共有し、楽しむことができます。わたしたちが時間をかけて楽しんでいる限り、環境を保全しながら観光業から利益を享受し発展し続けることができます。
フレンズ・オブ・ザ・レイク・ディストリクトのウェブサイトでは、このトピックに関するブログをご覧いただけます。また、レイク・ディストリクトとカンブリアの景観を守りながら発展させていくというチャリティ団体の85年にわたる活動の使命についても詳しく知ることができます。